Suit Care and Cleaning – スーツのケアとクリーニング

店舗でスーツを販売していた頃、よく尋ねられるのがスーツの寿命。
消耗品である仕事着として「どれくらい着れるのか」という気持ちは分かるのだが、スーツの寿命は スーツの素材 のほか 使用頻度 , 使用状況 によって異なってくるため 一概には答えられないが、それでも日常的なケアをしているのと、しないのでは大きな差が生じてくる。

日常のケア

ウール素材のスーツの日常的なケアは、ウール素材の「回復性」を得るために、しっかりとした太めのハンガーで形を整え ブラッシングして 休ませるのが基本。

ポリエステルは非常に耐久性のある素材で、混紡率が高くなるとシワになりにくい反面、スチームでシワを伸ばすことが難しくなるが、基本的にはハンガーにかけてブラッシングを行うのは同じ。

ウールの特性については下記参照
Wool and Fabric - 毛糸と生地
Wool and Fabric - 毛糸と生地 スーツに使用されている生地の種類と素材、生地の 織り, 柄 のほか ウールの特性 や Super 100s と 糸の単位 などを スーツ 生地の素材や糸について紹介。

一度 着用したスーツはブラッシングなどを行ってから 1週間ほど休ませるのが理想で、5着ほどのスーツをローテーションで着回すのが良いのだが、可能な限り同じスーツを連続して着用することを避けることで スーツの傷み方は変わってくる。

スーツの型崩れを防ぐためにはスーツ用ハンガーは必須で、スーツの肩巾に合った肉厚のものを使用し、吸湿性のある木製のハンガーが理想的だが、薄い木製のハンガーであれば 肉厚のプラスチック製ハンガーのほうが良い。
肩の傾斜がないタイプや 肩先が太くないハンガーは スーツ本来の形で吊ることができず 型崩れの原因になるため使用は避ける。

洋服ブラシは表面のホコリを落とすだけでなく、繊維の中に入り込んだチリやホコリを取り除き、生地を整える効果がある。
エチケットブラシは表面の糸くずやホコリの掃除には効果的だが、繊維の中に入ったホコリは取り除くことができず、生地によっては繊維を痛めてしまう可能性もあるので、スーツをケアする際にはブラシの使用を推奨。

ブラッシングの基本は、隠れたホコリを出すような感じで スーツ全体を払うようにブラッシングを行い、ホコリが浮き出てきたら 生地の目に沿って大きなストロークで ホコリを払い飛ばすようにブラッシングする。

ウールは吸湿・放湿で伸縮(ハイグラルエクスパンション)するため、スチーマーで水分を与えて繊維を一時的に飽和状態にすることでシワが伸び、自然乾燥すると本来の状態に復元する。
また、スチーマーには T-fal のアクセスチームのような除菌・脱臭効果がある製品もある。

T-fal アクセスチーム 商品ページ 

スチーマーでなく家庭用のスチームアイロンでも代用でき、スチームだけでシワが取れないようであれば 霧吹きで生地に水分を与え、必ず当布をしてから軽くアイロンをかけると効果的。
ただし、アイロンを強く押し付けると 生地の毛羽が寝てしまい「アタリ」というテカリの原因になるので注意が必要で、アイロンを当てた後は生地の毛羽を起こすようにブラッシングしておく。

スチーマーを使用した後は ハンガーに吊って1日程度は 風通しの良い場所で 乾燥が必要で、乾燥させずにワードローブへ入れてしまうと カビの発生 や パッカリング(生地表面が凸凹になる状態)の原因になるので注意が必要。

ピリング(毛玉)

毛玉 は 着用中の摩擦などにより 生地表面で毛羽だった繊維の先端が絡み合うことで発生し、袖口、脇、腰ポケット、内股など 擦れる箇所で発生しやすい。

ピリングはウール製品に発生しやすいイメージがあるものの、ウールは短繊維で強度も強くないため スーツで使用される 梳毛糸で織られた生地の場合は、毛玉ができても 抜け落ちるので 気づきにくい。

一方、ポリエステルなどの化学繊維は 長繊維で 強度があり、毛羽の先端が絡み合って毛玉が発生しても 表面にとどまってしまうため、織りの甘いポリエステル製品は 少し擦れると毛玉だらけで残念な感じになってしまう。

スーツで使用されることが多い ウールとポリエステルの混紡素材は、ウールも毛羽がポリエステルに絡むため、生地表面に留まる傾向にある。

生地は毛玉を除去するたびに薄くなっていくので、毛玉になりやすい素材は普段から摩擦に注意するのと 、ブラッシングをして 毛羽の絡みを解消しておくのが最善の予防策。
また、毛玉は生地の繊維がつながっているので 引っ張ると繊維が引っ張られ、生地に大きなダメージを与えてしまうため、毛玉取り器 や 毛玉取りブラシ、ハサミなどを使用してカットする。

アタリ・テカリ

アタリ は アイロンなどで 加熱・加湿した繊維に圧力が強くかかり、糸が扁平(へんぺい)になったり 織物が持っている自然な凹凸が小さくなって鏡面化し、局部的に光沢感が異なる現象で、衿先部 や ポケット、ズボンの相引線などに発生しやすい。


アタリは ブラッシングで倒れた繊維を起こすことで症状を緩和でき、ウールの場合はスチームで繊維を膨張させてからブラッシングすると効果的。

アタリは アイロンやプレスなどで生地表面が鏡面化する現象だが、テカリは着用時に摩擦などによって生地表面が鏡面化する現象。
原因が同じなのでブラッシングで症状を緩和できるが、アタリと違って着用時の摩擦などは常に発生するもののため、テカリが発生しないよう日頃のブラッシングが重要だったりする。

パッカリング(ピリ)

パッカリング は 縫い目周辺に細かい波状のシワが出る現象で別称は「ピリ」。

生地の伸縮率と縫い糸の伸縮率が異なるため、伸縮率の大きな生地 や 雨に濡れるなどして生地が大きく動いた時に発生しやすい。

厚手の生地よりも 細番手を使用した薄くしなやかな生地のほうが出やすく、高温多湿な日本では 一概に悪い仕立てとも言えないところがあり、アイロンで消すことができる。

夏場のケア

昨今はクールビズが定着して「夏場のスーツ」は見かけなくなったが、それでも綿パンやジーンズではなく、最低限のマナーとしてスラックスを着用している人も少なくない。

夏場で最も厄介なのは「汗」。
夏用のスラックスは裏地が「半裏」になっており、汗をかいたときに直接 表地が吸収してしまう箇所も多く、生地には汗に含まれる皮脂や塩分などが蓄積されていくので、ベタついて着心地が悪いだけでなく 素材にもダメージを与えてしまうが、この回避策として有効なのが「ステテコ」。
夏場の二重履きに抵抗を感じるところはあるが、蒸すようなこともなく非常に快適だったりする。

ただ、それでもスラックスは汗で汚れやすいので、濡れタオルなどで衣類に染み込んだ汚れを吸い取るように処理した後、しっかりとハンガーで形を整えて乾燥させてからブラッシングを行う。
後述するように ドライクリーニングでは皮脂や汗に含まれる塩分など水溶性の汚れは落ちないので、汗をかいたからといってドライクリーニングに出すと生地を傷めることになる。

雨の日のケア

ウールには撥水効果があるので、素材が傷んでいなければ 軽く雨に降られた程度であれば、表面に付いた水滴を払えば良いのだが、生地が水分を吸ってしまった場合は、できるだけ早く乾いたタオルなどで水分を吸収した方が良い。
とは言え 仕事中だとハンカチで表面を拭う程度しかできないので、帰宅後などケアができる状態になったら 肉厚のハンガーにかけ、形を整えてから風通しの良い場所で乾燥させる。

スーツが生乾きの状態だと 雑菌が繁殖して臭気が発生するため、乾燥後も臭いが気になるようであれば 除菌・脱臭効果のあるスチーマーを使用後、ブラッシングで毛羽を整える。

バブリング

スーツは型崩れを防ぎ 張りを持たせるため 表地と裏地の間に芯地が入っており、芯地には接着剤で貼り付ける「接着芯」と 縫製する「毛芯」がある。

接着芯は 毛芯を使用せずにポリエステルなどの素材をプレスで貼り付ける仕様で、軽量で様々な素材に対応でき 低コストのため 既製服 で多用されており、オーダースーツでも低価格のものは接着芯を使用しているケースが多い。

接着芯はプレスで貼り付けているだけなので、雨でズブ濡れになるなどして 表地が大きく伸縮した際に、接着芯との伸縮差が許容範囲を超えるために剥離し、部分的に浮き上がり現象が生じることがある。

接着芯の接着剤として使用されているのは樹脂のため、 着用頻度が少なく 乾燥した場所に保管していても 経年劣化は避けられず、早ければ2~3年ほどで劣化する可能性がある。
また、バブリング が発生した場合は プレスで 誤魔化すことはできるが、剥離したものを再接着することはできないため、バブリングが発生した時点がスーツの寿命と言える。

クリーニング

スーツのケアで勘違いが最も多いのが クリーニング。

ジャケットと比較するとスラックスが汚れることが多く、料金も安くなるのでスラックスのみクリーニングに出したいところだが、スーツ上下でクリーニングの頻度が異なると、微妙に色が変わって残念な感じになるため、スーツは上下揃えてクリーニングするのが基本。

クリーニングに出す頻度は 着用状態にもよるが、ドライクリーニングは1ヶ月に1回で十分。
週に1~2回ほどしか袖を通さないのであれば シーズンオフに1回クリーニングに出す程度でも問題ない。

夏場は汗をかくため 多くの人が1~2週間に1回程度の割合でドライクリーニンに出しているが、汗を吸ったスラックスをドライクリーニングに出すと 繊維に汗や皮脂の汚れが残ったままになり「黄ばみ」「色あせ」「異臭」の原因になるので注意が必要。

クリーニングが仕上がったスーツは 防汚用のビニール袋を外し、肩巾にあった肉厚のあるハンガーに掛け直して保管する。
スーツをクリーニングのビニール袋に入れたままワードローブに保管すると 通気性が失われ カビが発生する原因になるので、ホコリなどを防ぎたい場合は テーラーバックのような通気性のある衣類ケースを使用する。

洗濯表示

繊維製品に付いている洗濯表示は 2016年12月より ISO(国際標準化機構)が制定した規格に準拠したものに変わっており、「ドライ」と表示されていたものが「 P 」、「ドライ セキユ系」が「 F 」になっているほか、ウェットクリーニングを示す「 W 」や タンブル乾燥を示す「 ◯ 」などが追加され ピクトグラムも刷新された。

使用されているピクトグラムは全41種類あるが、ピクトグラムの形状は「家庭選択」「漂白」「乾燥」「アイロン」「クリーニング」の5種類で「乾燥」は「タンブル乾燥」と「自然乾燥」がある。

タンブル乾燥(タンブラー乾燥)は 衣類を回転させながら温風をあてて乾燥させる乾燥機で、コインランドリーや家庭用の乾燥機の多くが該当する。

汚れの種類

石鹸の主原料である「界面活性剤」は  水と馴染み易い部分と馴染みにくい部分があり、水に馴染みにくい部分が汚れに吸着し、表面張力の低下によって水中に汚れが浮かび上がろうとする性質を利用して洗浄が行われ、この性質を化学合成して洗浄力を強化したものが合成洗剤で、一般的な洗濯用洗剤はほぼ合成洗剤になる。

汚れには「水性」と「油性」があり、水性の汚れであれば水や温水を使用しないと落ちにくく、油性の汚れは有機溶剤を使用しないと落とせない。
合成洗剤は油性の汚れにも効果はあるものの、有機溶剤を使用したドライクリーニングと比較すると限界はある。
一方、どんなに頑張っても水を使用しないドライクリーニングでは、部分的な水溶性の汚れは除去できるものの、水洗いしたように繊維の中に入っている水溶性の汚れを落とすことは出来ない。

東京都クリーニング生活衛生同業組合 汚れの種類

クリーニングの種類

クリーニングは「ドライクリーニング」と「ランドリー」の2つに大別され、この他に「ウェットクリーニング」や「特殊クリーニング」というものがある。

ドライクリーニング

ドライクリーニングは「水」を使用せず「有機溶剤」を使用したクリーニングで、洗濯表示では「 P 」もしくは「 F 」で表記されており、「 P 」は パークロロエチレン・石油系溶剤を使用、「 F 」は石油系溶剤を使用したドライクリーニングになる。

パークロロエチレン(パーク系)は 溶媒として利用されているテトラクロロエチレンを使用した「塩素系」に分類される処理で 強力な洗浄力がある反面、溶剤に毒性があり 取り扱いが難しいため、パークロロエチレンを使用しているクリーニング業者は全体の3割程度しかない。

石油系溶剤 は アルカン , シクロアルカン(ナフテン) を主成分とした 工業ガソリンの クリー二ングソルベント(ターペン)を使用した処理で、パーク系と比較すると洗浄力は劣るものの デリケートな衣類にも使用できることから 国内の7割近いクリーニング店が 「 P 」マークでも 石油系溶剤 で処理を行っている。

東京都環境局環境改善部 石油系混合溶剤の成分組成調査


石油系溶剤系のドライクリーニングは荒っぽく例えると、スーツにシンナーをかけて汚れを落とすようなものなので「油性」の汚れには抜群の効果があり 型崩れなども起きにくいという特徴がある。

ウェットクリーニング

改定された洗濯表示に追加された「 W 」マークで表しているクリーニングで、家庭での水洗いではなく 専門技術が必要な水洗い処理を行うクリーニング。

「 P 」や「 F 」などドライクリーニングのマークが付いている商品でも「 W 」が表示されていれば、ウェットクリーニングで水洗いが可能。

ウェットクリーニングのメリットは ドライクリーニングでは落としにくい「水性」の汚れを落とすことができることで、夏場のスラックスなど汗で汚れたものに適しており、近年は「汗抜き」や「ダブルクリーニング」として訴求している業者もあるが、ウェットクリーニングはドライクリーニングやランドリーのような基準が存在せず、業者によって処理方法や技術が大きく異なっているため、業者選びが重要なポイントになる。

オーダースーツの洗濯表示

既製スーツは 同じ生地や付属品を使用して生産するため商品に合った洗濯表示や品質表示をつけることが可能だが、イージーオーダーやパターンオーダーは1着ずつ縫製する生地が異なるので、洗濯表示は「最もリスクのない」ものが使用されていたりする。

前述のようにウェットクリーニングは処理基準がなく、スーツ地の中にはウェットクリーニングができない素材も存在するので、仮にウエットクリーニング可能な素材であっても、販売店側が洗濯表示タグを用意しない限り 縫製工場が使用するオーダースーツの洗濯表示は「ウェットクリーニング不可」になる。

ランドリー

一般家庭の洗濯と似た「水」を使用するクリーニングで、家庭洗濯とは異なり 温水を使用することで 水では落ちにくい汚れを落とすことができる。

特殊クリーニング

水洗いやドライクリーニングで洗えない 毛皮や皮革などの特殊素材のクリーニング。
素材によってクリーニング方法が異なっている。

ファブリーズの利用

花王が販売しているヒット商品「除菌消臭スプレー ファブリーズ」は 誇大広告の問題もあって、ファブリーズをスプレーすれば「キレイになる」と勘違いしている人が多く、クリーニング業界では「ファブリーズ」による 悪臭 のクレームが増加している。

ファブリーズの効果は「 殺菌と表面の臭い成分を包み込むことによる消臭」で、実はニオイ成分を分解して除去しているわけではなく 「臭いものに蓋」をした状態でファブリーズの分子が表面に残っており、その分子がクリーニングで行われる高圧プレスによって破壊されると、クリーニング業者の人曰く「この世のものとは思いない臭さ」が発生するらしい。

臭さはファブリーズの使用期間に比例するので「臭ったらファブリーズ」を繰り返している衣類は、クリーニング店からすれば「危険物」なのだが クリーニングを断ることもできず ジレンマに苛まれているのが現状だったりするので、個人的には T-fal  アクセスチームのような除菌・脱臭効果のあるスチーマーを使用を推奨。

Suits
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